Aさんのケース 中堅の情報関係会社に勤めていたAさんは、転職でこの会社にやってきた。 20代が大半という若い社員を管理する立場になったのだ。 まだ若いと思っていたAさんも、ここでは長老の部類に入ってしまう。 Aさんの、かつら歴は3年になる。 Aさんが使っているのは、つむじと分け目の部分に人工皮膚が入ったかつらだ。 かつらは、外から見えるのは毛だけなのだが、分け目とつむじだけは、地肌が見える。 自然に見せるため、地肌が見える部分にだけは人工皮膚を使うことはよく行われている。 高価な人工皮膚は、近くでみても本物の皮膚そっくりで、かつらを知らない人にはまず見分けがつかない。 Aさんのかつらも、うまく人工皮膚が使ってあり、自分でもよく出来たものだと思っていた。 間近で見られても、分け目に限ればバレない自信はあった。 前の職場の3年間は、かつらでも問題なく過ごしてきたし、きっと今度もだいじょうぶだろう。 そう思っていた。 新しい職場は、一つ、いやなことがあった。 Aさんの机は、管理職ということで、部下の机に正対して設置されている。 部下が持ってくるドキュメントを直す間、部下はAさんの机の前に立ってAさんを見下ろす形になるのだ。 Aさんとしてもあまり気分はよくないが、机の配置がそうなっている以上仕方がない。 だが、下を向いてドキュメントを読んでいると、部下が自分の頭を凝視しているようで気が気でなかった。 (続く) |